特集 腕木式信号機 その1



腕木式信号機とは?
目次
@腕木式信号機とは
A腕木式信号機の種類
B腕木式信号機の付属品
C腕木式信号機の配置例
D腕木式信号機の現示と列車の運転

@ 腕木式信号機とは

 国鉄時代のローカル線ではたいていの路線で見ることのできた信号機で、ローカル線の必須アイテムのひとつがこの 腕木式信号機です。腕木式信号機は日本に鉄道が伝わったころにはほぼ完成していた信号機で、現在もわずかではありますが 現役で活躍している信号機です。
 操作は人の手による場合が大部分で、駅や信号所にある「信号テコ」という大きなレバーを操作し、ここから伸びるワイヤーで 信号機本体の腕木の位置を変える仕組みです。信号機本体には万一このワイヤーが切れたときのためにおもりがつけてあり、 ワイヤーが切れても信号機が進行とならないようにされていました。単純な機構ながら、安全性の確保もきちんとなされている 信号機でした。
 しかし列車の本数が増え、駅などの配線も複雑になると、人手に頼っていた腕木式信号機に限界が生じてきました。明治の末期 には現在よく使用されている色灯式信号機が輸入され、昭和の初めには主要路線で腕木式信号機は姿を消し始めました。また、 人の操作によるミスが大きな事故につながることもあり、昭和31年 (1956年) の参宮線六軒事故をきっかけに地方路線でも 色灯式信号機への置き換えが本格的に始まりました。JR後もいくつかの路線で残っていましたが、信号を操作する人員が必要な ことや安全保安上の観点から次々は廃止され、2005年八戸線での使用を最後にJR線上から腕木式信号機は消滅しました。私鉄 では数社で残っていますが、これには貨物専業の路線も含まれています。  
 腕木が水平になっている状態は停止となります。この画像では赤い灯火がついていますが、通常この灯火がつくのは夜間のみで 昼間はついていません。なお、赤い灯火は腕木式信号機についている赤いガラス板を通して発色されるものであり、電球自体が 赤いのではありません。
 進行の場合は腕木が45度傾いた状態になります。夜間の場合は色灯式信号と同様に青色になります。


A 腕木式信号機の種類

 腕木式信号機にはその用途によりいくつか種類があります。色灯式信号機の場合は名称が違うだけでほぼ同じ場合が多いの ですが、腕木式信号機の場合はそれぞれ異なっています。
 もっともありふれた腕木式信号機で、出発信号機です。腕木のサイズは900mmでやや短くなっています。同じ赤色で 形状も似ていることから場内信号機も同じように扱われますが、実際は腕木の大きさが異なっています。
 最も多く設置され、 最後まで残ることが多いため鉄道公園や廃線・廃駅跡に保存されていることが多いのもこの信号機です。なお、この信号機は 鍛冶屋線市原駅跡で保存されているものです。
 上の信号機が場内信号機です。腕木の長さが1200mmですので、その大きさの違いがよくわかると思います。
 下の信号機は腕木式信号機独特の信号機で、通過信号機と言います。通過信号機は出発信号機の予告をし、必ず場内信号機の 下にとりつけられます。大きさは出発信号機と同じ900mmですが、形が「三味線のばち」のようになっているのが特徴です。 また、通過信号機では「停止」はなく、「注意」と「進行」となっています。そのため腕木の色も黄色となっています。
 通過信号機はすべての場内信号機に取り付けられているのではなく、急行など通過列車がある路線・駅に設置されています。 この通過信号機がない場合は出発信号機が停止ということを想定し、低速で通過しなくてはなりません(手信号で代用することも ありました)。
 JR線では因美線での使用が最後でしたが、現在でも小坂鉄道茂内駅でかろうじて残っています。
 この信号機は門司港駅構内に保存されているものですが、通過信号機も博物館などで保存されていることが多い信号機です。

 最後に紹介するのがこの遠方信号機です。遠方信号機とは場内信号機を予告する信号機で、駅からかなり離れた場所に 設置されていました。腕木の長さは場内信号機と同じで1200mm、形状が「矢羽根」になっているのが特徴です。 通過信号機と同様に、遠方信号機でも「停止」はなく「注意」と「進行」を現示し腕木の色が黄色となっています。
 遠方信号機は駅から数km離れていることもざらで、場合によっては隣の駅のすぐそばに設置されていることもありました。 このように離れた 場所に設置されるため、ワイヤーで操作する腕木式信号機にとって予想される腐食による切断や たるみなどが原因による故障が発生してもわかりにくいという危惧がありました。そのため操作するワイヤーを2本に するなど保安性を高めていましたがそれでも故障は発生し、色灯式信号機が多くの路線に設置されるようになると 腕木式信号機が残る路線でも遠方信号機だけは色灯式になることも多くなりました。下の信号機が色灯火された遠方信号機 です。信号機の「背」の部分の板が完全な長方形となっているのが特徴で、この場合も停止(赤)はありません。
 このようなことから腕木式遠方信号機は現在では完全に消滅し、保存も極めて少ないうえ模型ですら忘れられた存在に なっています。
 この遠方腕木式信号機は大阪の交通科学館で保存されている極めて貴重なもので、数少ない保存例の一つです。

B 腕木式信号機の付属品

 腕木式信号機が設置されている駅には必ずついている設備というものがありました。まず腕木式信号機が設置されている 路線というのは原則として非自動閉塞となっています。したがって「タブレット」が使用され、これを交換する作業が腕木式 信号機とセットとなることも多いです。ただし、非自動閉塞の路線がすべて腕木式信号機ということは言えません。現在 腕木式信号機はJR線上から姿を消しましたが、「タブレット」を使用する非自動閉塞は残っています。
 これは腕木式信号機を操作する「信号てこ」と呼ばれるもので、駅舎のそばやホームの端などに設置されていました。 信号機を「進行」とする場合はこのてこを倒して信号を操作します。遠方信号機や見通しの悪い場所に設置されている場合は 「信号反応器」というミニチュアの信号機が中にありました。 それぞれの信号てこは1つの信号機の操作を行うため、大規模な駅ではずらりと並んだ信号てこが設置された小屋がありました。 この画像は美作河井駅にあった小屋で、6つのてこ(出発2・場内2・通過2)が設置されていました。矢印の部分は通過列車に タブレットを渡す授器で、これが設置されている駅には通過信号機がありました。なお、この美作河井駅も遠方信号機は 色灯火されていたため、遠方信号機用のてこはここにはありません。
 大きな駅では進入する線路の数が多くなり、当然信号機の数も多くなります。色灯式信号機の場合でも信号機がすずなりに なった信号柱をいくつも見かけますが、腕木式信号機の場合は色灯式信号機のようにはいきません。腕木式信号機の場合 腕木のスペースが必要なため隣に並べるにもある程度の距離が必要であり、上下に設置するのも2つが限度とされていました。 そのため腕木式信号機を多く設置する必要がある駅やスペースのない駅などではこのように「やぐら」を建てて、その上に 腕木式信号機をたくさん並べていました。
 この画像は小坂鉄道(小坂精錬小坂線)の大館駅にあったもので、かつては同駅から 花岡線という路線もあったため赤の四角で囲まれた部分にも腕木式信号機が2基設置されていました。現在は駅構内の整理に より撤去されています。
 その2では 腕木式信号機がどのように配置されているかを紹介してゆきます。
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